GDPから読み解く日本の経済状況とGDPを上げるために私たちにできること|福山大学 高山 和夫先生にインタビュー

GDPから読み解く日本の経済状況とGDPを上げるために私たちにできること|福山大学 高山 和夫先生にインタビュー

福山大学
高山 和夫先生


1975年茨城県生まれ。2000年一橋大学経済学部卒業。同年4月に経済企画庁入庁。2001年の省庁再編後は内閣府へ。内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部においてGDP(国内総生産)の推計業務に長年従事する。この他、総務省統計委員会担当室において供給・使用表(SUT)の導入に向けた検討、内閣官房統計改革推進室において統計分析審査官、内閣府経済社会総合研究所景気統計部において「景気を把握する新しい指数」の検討、に従事。この間、社会人大学院生として、埼玉大学大学院人文社会科学研究科博士後期課程経済経営専攻にて学び、2022年博士(経済学)。2023年より福山大学経済学部国際経済学科准教授に着任。また、文教大学にて非常勤講師を務める。専門分野は、国民経済計算(SNA)、産業連関分析、公的統計制度。経済統計学会、環太平洋産業連関分析学会に所属。

主な著書・論文(共著・編著含む)『産業連関表から供給・使用表への歴史的転換』(単著・2023・博論社)、「わが国産業連関表に関する歴史的考察:『昭和 26 年表』 の作成経緯を中心に」.(単著:『経済科学論究』18号、2021)、「講座 SUT 入門編 No. 2 供給・使用表 (SUT) の歴史」.(単著『産業連関』30 (2)、2022)など。


1.現在日本のGDPは世界で何位くらい?

皆さんはニュースなどで、GDP(国内総生産)という言葉を聞いたことはあるでしょうか。もしくは、今年の経済成長率は何パーセントになった、日本の景気は上向いている、といった話題を聞いたことはあるのではないでしょうか。

それらは全て、このGDPと呼ばれる数値が基になっています。また、国際的な経済比較をする上で欠かせない経済指標が、GDP(国内総生産)です。このGDPは、国民経済計算(SNA:System of National Accounts)という国際基準に基づいて推計されています。私は、このSNAに関する研究をしております。

このGDPですが、日本のGDPはどのくらいの額・規模でしょうか。また、日本のGDPは世界で何番目の規模でしょうか。

答えは、2022年度時点で、566.5兆円(名目)となっており、世界で第3位(2023年12月11日時点)です。ただし、国際通貨基金(IMF)は2023年における「世界経済見通し」において、日本のGDPがドル建てベースで世界3位から4位に転落し、ドイツに逆転されるとの見通しを示しました。

日本は、戦後の高度経済成長を経て、長らく米国に次ぐ世界第2位の地位にありましたが、バブル経済崩壊後の長い経済低迷に入り、2010年にはなんと既に中国に抜かれています。

また、名目GDPを人口で割った日本の一人当たり名目GDPは、2001年に第5位でしたが、2021年には3万9,803ドルとなり、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で第20位まで落ち込んでいます。これはドルベースですので、為替変動による昨今の円安の影響も受けていますが、やはり長期にわたる日本経済の低迷が大きな影響と言えるでしょう。


2.日本のGDPを構成する産業は?

皆さんは、「ペティ=クラークの法則」をご存じでしょうか。

この法則は、「ある一国の経済が発展すると、それに伴い国民経済の中心の産業が第一次産業から第二次産業、第二次産業から第三次産業へと変遷すること」とされます。日本の産業構造も、かつては農林水産業や製造業が中心でしたが、今では、『サービス業』などの第三次産業が中心となっています。

たしかに、日本における2021暦年の経済活動別(産業別)のGDP構成比(名目)(2023年12月11日時点)をみると、第1次産業のシェアは1.0%、第2次産業のシェアは26.1%、第3次産業のシェアは72.9%となっています。第3次産業の中心は、「サービス業」ですが、これには、宿泊業・飲食サービス業、生活関連サービス業・娯楽業、医療・福祉、情報通信業など、幅広い業種が「サービス業」に該当します。

このように、「サービス業」などの第三次産業は名目GDPの約7割を占め、規模は拡大傾向にあると言えます。


3.日本のGDPの推移から、日本の人口減少や少子高齢化の影響はどのように見ているか?

こうした「サービス業」は、顧客に対してサービスを提供する業種のことですから、その付加価値は基本的に私たち一人ひとりの「ヒト」により生み出されたものです。

最近、人的資本への投資の重要性が言われています。これまで、特に日本企業における「ヒト」への投資は、企業内でのOJT(On The Job Training)や研修により培われるとされてきました。

しかしながら、雇用・人材の流動化が進み、若者が早い時期から転職希望を持つなど、働き方は多様化しています。また、人口構造も少子高齢化が進み、出生数の低下により既に人口減少社会に突入しています。

「令和4年版厚生労働白書」(厚生労働省)によれば、少子高齢化に伴い、既に減少に転じている20歳から64歳までの現役世代人口は2025年以降、減少がさらに加速すると予測されています。従って、これまでに以上に「ヒト」の存在価値はますます重要になってくると考えられます。

その一方で、「労働生産性の国際比較 2022」(公益財団法人 日本生産性本部)によれば、OECDデータに基づく2021年の日本の時間当たり労働生産性は49.9ドル(5,006円)で、OECD加盟38カ国中27位でした。

特に、産業別労働生産性の国際比較でみると、「サービス業」は製造業よりも低い傾向にあります。「サービス業」の生産性の向上は、喫緊の課題と言えます。



4.日本のGDPを伸ばすために必要な取り組みとは?

では具体的に日本のGDPを伸ばすためにはどうすれば良いのでしょうか?
やはりそれには、私たち一人ひとりの付加価値を高めることが大切です。個々人が、自らの能力を高め、自己研鑽に励むことが、その「ヒト」の生産性を高めることにつながっていきます。

「ヒト」の生産性を高めるには、さまざまな方策が考えられますが、昨今話題となっているのが、「リカレント教育」です。「リカレント教育」とは、個人が働きながら学び、その学びを仕事に生かし、更に新たな学びへと繋げていく循環型(recurrent)教育のことです。

実際、私も社会人大学院生として働きながら平日夜間と土曜日に大学院に通い、学びなおすことで、自分の専門分野を成長することが出来ました。このように、私たち一人ひとりが、日々の努力や研鑽を積み重ねることで、自らの専門性や生産性を高めることが出来ます。

その結果、人口減少社会であっても、私たち一人ひとりの生産性を高めることで、日本のGDPを伸ばすことにつながっていくのです。