デジタル通貨を使って地域・行政のDXは進めることができるのか?|桜美林大学 木内 卓先生にインタビュー

桜美林大学
木内 卓先生


1986年東京大学法学部卒、三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。MUFG財務企画部・監査部、三菱UFJリサーチ&コンサルティング業務管理部長等を経て、2022年4月より現職。デジタル通貨フォーラム行政事務分科会幹事。埼玉大博士(経済学)。専門は金融論・銀行論。


1.そもそもデジタル通貨とは?

「デジタル通貨」は社会で広く使われる電子的なお金(マネー)です。Suicaなどの交通系ICカードに加え、近年は〇〇ペイといったスマホで簡単に支払うことができるサービスも普及しています。しかし私は「中央銀行デジタル通貨」に代表される、ブロックチェーンなどの新しい技術基盤の下で発行されるお金(マネー)を、これら電子マネーと区別して「デジタル通貨」と呼んでいます。

この意味での「デジタル通貨」には、中央銀行の発行する電子的な現金である「中央銀行デジタル通貨」や民間事業者が発行する「ステーブルコイン」が挙げられます。加えて最近では、銀行預金にブロックチェーン技術を採り入れた「トークン化預金」も検討されています。

「デジタル通貨」は、文字通りデジタル化されているため、データの利活用が容易である上に、 ブロックチェーンを基盤とすることで高い耐改竄性と取引の透明性が担保され、取引のトレーサビリティ確保にも活用できます。様々なビジネスニーズに応じたプログラムを書きこむことで取引を自動化し事務効率化・コスト削減が期待できる他、使途制限や期間限定など使われるシーン毎にきめ細かく条件設定できるのもメリットです。

一方、匿名性が担保される現金に対し、個人情報を含む各種データを政府や企業が取得することに抵抗を感じる方もいるでしょう。お金(マネー)として安心して使われるためには、不正な利用を排除すると共にセキュリティー対策も万全に講じられる必要があります。

現在、「中央銀行デジタル通貨」(CBDCと呼ばれます)については、上記課題をクリアすべく、具体的な制度設計や技術面の検討が財務省・日本銀行を中心に進められています。米国を中心に利用が拡大している「ステーブルコイン」は、安全性や利用者保護に懸念があり世界中で規制強化が求められていますが、本年6月に日本は世界に先駆けて包括的なステーブルコイン規制を導入しました。現在複数のプロジェクトが国内での具体的発行に向け検討中と伝えられます。
色々問題があった「ステーブルコイン」に対し、厳しい規制と監督を受ける銀行の預金は現代社会において現金と並ぶ通貨であり、預金保険で守られています。銀行預金にブロックチェーン技術を採り入れることで、安全に「デジタル通貨」のメリットが活かせると考えるのは自然であり、現在米国や欧州(ドイツ)に加え日本でも「トークン化預金」が実装に向け検討されています


2.地域・行政はなぜデジタル通貨を利用するのか

以前発行ブームとなりながらも、管理コストの負担や利用が進まないことから立ち消えとなっていた地域通貨ですが、スマートフォンを用いることで大幅に運営コストが削減できるようになったことから、近年再び全国の市町村や商店街等で導入ラッシュとなっています。

コロナ禍での特別定額給付金の支給を巡る混乱は、日本の行政DXの遅れを痛感させるものとなりました。これら「電子地域通貨」はコロナ対策などの各種給付金の受け皿としても活用され、浸透しています。

更に、デジタル田園都市国家構想交付金を受けるなど、スマートシティを目指す先進的な一部自治体では、データ連携基盤を構築しこれと地域通貨をリンクさせることで、地域のキャッシュレス化とデータ利活用の促進、決済を起点とするシームレスなサービス間連携が目指されています。デジタル通貨は、この実現を技術面から支える有力な決済プラットフォームとなり得ると考えられます。


3.地域・行政がデジタル通貨を導入するハードルとは?

従来紙ベースで行われてきた各種行政手続きが、スマートフォンで行える行政のデジタル化が進んでいます。防災や粗大ごみの取扱いなど、行政ポータルサイトやアプリも拡充されてきています。しかし多くの自治体では子育て・医療などの行政サービス毎に担当部局が分かれ、各々でシステム化が進められているためにシステムがサイロ化しています。(※サイロ化:業務におけるプロセスやシステムがそれぞれ孤立し、情報連携がされていない状態)

水道・交通などの公共サービスを含めれば、行政・地域には膨大なデータが蓄積されていますが、システム間連携がなければサービス領域をまたいで横断的にデータを活用することはできません。

既存技術でも連携構築は可能ですが、デジタル通貨の基盤であるブロックチェーンプラットフォームを活用すれば、安全かつ比較的容易に実現することができます。更にマイナンバーなどのIDとリンクさせることで、よりパーソナライズされた最適なサービスを住民に提供することが可能となります。

勿論、個人情報の取得はあくまで同意に基づく必要があり、慎重かつ丁寧に説明し理解を求める必要があります。また自治体において上記のような包括的なDXを進めるためには、地域を巻き込み一体となって部局横断で施策を展開できる強いリーダーシップの存在も欠かせません。



4.デジタル通貨を導入した後の展望

ブロックチェーンを活用しプログラマブルでトレーサブルなデジタル通貨は、特定の地域や特定の売買でのみ使われる「色のついた」お金の発行を可能にし、取引の成立やそれに伴う決済を自動化でき、サービスをまたぐデータ連携・データの利活用を容易にします。

住民にとっては、例えば診察予約をすると、同時に送迎のタクシーが配車され、受診後は待ち時間なく薬を受け取って帰宅できる、勿論それぞれの支払いは自動的に済んでいる、といったことが可能になります。行政にとっては、地域住民の来院履歴を基に乗合タクシーを最適に手配したり、医療・介護をまたぐデータ連携や効果的な健康増進施策の展開が可能になります。

「電子地域通貨」は地域経済の活性化、購買データのマーケティング活用に使われますが、店舗で使われることで精算される電子地域通貨に対し、デジタル地域通貨はそのまま転々流通しトラッキング可能です。住民にとっては、各種ポイントが自動的に付与・適用される他、行政からの各種給付や税の免除・控除も申請を待たず自動で処理されます。

行政にとっては、子育てクーポンでお酒を買えないように制御したり、補助金の使途・支払先をトレースすることで施策効果を精緻に把握することができます。住民IDと紐づくことで、個々の住民の属性に合ったきめ細かな施策をピンポイントで届けることができるのも魅力です。

社会実装を見据えて検討が進むデジタル通貨は絵空事・夢物語ではなく、現実に適用可能な技術です。デジタル通貨の導入は地域経済に画期的な効果をもたらし、行政のあり方を根本から変革することでしょう。デジタル通貨のもたらすイノベーションに期待しましょう。