【松本大学】飯塚徹先生に取材!2023米国信用不安危機からの教訓


松本大学松商短期大学部
飯塚徹先生


専門は金融法(金融セーフティネット、破綻処理法制)、地域金融(地域金融機関の将来の在り方)

2003年3月、東京大学大学院法学政治学研究科修了(法学修士)

2023年3月、一橋大学大学院法学研究科修了(経営法博士)

株式会社八十二銀行勤務を経て、2009年4月から准教授を経て現職。

主な著書・論文に、『大学生のための法的思考力』(共著、みらい、2023)、『銀行論』(藤原印刷、2020)、「世界金融危機後の銀行の破綻処理法制の考察」(松本大学教育総合研究、2022(全国銀行学術研究振興財団助成研究))、「現行の銀行破綻処理法制の考察」(松本大学地域総合研究、2021)など。

リンク:http://www.jade.dti.ne.jp/bankfund/


1.2023米国信用不安危機とは何だったのか?

世界金融危機(2008‐2010)を経て、システミック・リスクに備える態勢が整備され、その後、米国では、COVID-19パンデミックを経験しましたが、特に経済社会に大きな影響を与える金融機関の破綻は発生しませんでした。

そうしたなか、2023年3月にシリコンバレー・バンク(SVB)が破綻し、米国の地方銀行2行が連鎖的に破綻しました。米国発の信用不安は欧州にも広がり、クレディ・スイス(CS)が実質的な破綻となり救済買収されました。

こうした一連の地方銀行連鎖破綻から1年が経過し、信用不安危機は一旦収束したと思われます。

なお、今後の動向は、現段階では明らかではありません。米国の地方銀行では商業用不動産(CRE)リスクが顕在化し、経営不安の兆候が表れています。米国商業用不動産(CRE)市場の悪化は、ドイツ銀行をはじめ世界の銀行経営に打撃を与えています。あおぞら銀行にも影響し、2024年3月期の純利益は280億円の赤字となる見通しです(15年ぶりの純損失計上)。

2023信用不安危機を振り返り、世界にどのような影響をもたらしたか、日本へはどのような教訓があるのか解説します。

米国の地方銀行連鎖破綻の特徴として、第1に、非付保預金者の割合が極端に高いこと(SVBが88%、SBNYが90%、ファースト・リパブリック・バンク(FRC)が67%)が挙げられます。いわゆる「粘着性」が低いということです。(※非付保預金とは、預金保険で保護される預金(付保預金)以外の預金のこと)

第2に、彼ら(非付保預金者)はSNSを活用してインターネットバンキングで預金を引き出すため、バンクランの速度が格段に速い(※バンクランとは金融機関で起きる取り付け騒ぎのこと)ことが挙げられます。SVBは1日で総預金残高の1/4程度にあたる420億ドル(5.7兆円)の預金が流出しました。新時代の「デジタルバンクラン」といえます。

第3に、全額預金は保護されましたが、世界金融危機の反省から命題とされたベイルアウト(公的資金による銀行救済)は回避されたことです。ペイオフコスト超は銀行セクターから事後徴収され、一方でベイルイン(無担保債権の元本削減)が実現されました。

CSの救済買収で最も注目されたのは、金融当局(FINMA)が同行の発行していた合計160億CHF(2兆2,800億円)のAT1債の元本削減を公表したことです。現在、FINMAに対して、120件以上の訴訟が提起されており、判決が注目されます。


2.日本でもデジタルバンクランは発生するのか?

米国信用不安危機からの検討課題(教訓)を整理します。主な検討課題は下記の3点です。

  1. デジタルバンクランにどの様に対処するか
  2. ベイルアウトの回避、TBTF(Too big to fail)政策の終焉は実現可能か
  3. ベイルインの債権者階層は如何なる場合も遵守すべきか

まずは第1の検討課題についてみていきます。米国では預金保険限度額25万ドルの預金口座が99%を占めますが、米国の銀行システムは世界金融危機以降、非付保預金への依存度を高めています。2021年には46.6%と1949年以来の高水準となりました。

FDICは、「FDIC報告書」において、非付保預金は少数の預金口座にしか存在しないが、銀行の資金調達においては重要な役割を果たし、特に資産規模で上位10%以内の大手銀行に非付保預金の集中がみられ、バンクランの可能性を高め、金融安定性を揺るがしているとしています。また、FDICは、「FDIC改革案」において、対処策として、決済用預金の限度額の引き上げ、または全額保護を検討しています。

日本では、米国のような急激な利上げの可能性は低く、金融庁によると、米国の3行のように顧客の厚生や預金の種類が極端に偏っている金融機関は確認されず、一定の「粘着性」は確保されていると評価できます。

金融機関の認識として、みずほ銀行の加藤勝彦頭取は、「邦銀は預金の『粘着性』が高く、米国同様の銀行破綻が起こる可能性は低い」と述べています(2023年4月3日)。

そして、FDICが預金保険制度の改革を検討している、決済用預金の全額保護は、日本では既に導入済です。総合的に勘案し、日本においてデジタルバンクランが発生し銀行が破綻する可能性は低いと考えられます。

こうした状況のなか、金融庁は万全の態勢に向け、3メガバンクや一部の地方銀行を対象に、預金が大量流出した場合に十分対応できる体制が整っているかを2024年6月までの今事務年度中に、約20行を目処に重点的に検証します。


3.ベイルアウト(公的資金による救済)の是非

第2に、米国では世界金融危機の反省から、ベイルアウトの回避が至上命題となり、ドッド=フランク法(2010年成立)はベイルアウトを明確に禁止する法律として評価されます。

日本も含め、米国・欧州で、市場を通じて伝播するような危機に対して、金融機関等の「秩序ある処理」に関する枠組み(破綻処理法制)が整備されました。今回のSVBとSBNYの破綻処理においては、システミック・リスク・エクセプションが発動されたことにより、預金は全額保護され、ペイオフ超資金は銀行セクターから事後回収するといったプロセスがとられました。

このプロセスは、今後の金融危機において常に採用できる施策ではないと考えられます。大規模で多くの金融機関が巻き込まれるシステミック・リスク型の金融危機においては、銀行業界が事後負担する財務的な余裕はなく、強いて負担するとなると 業界全体の回復・再生に多大な悪影響を与えると思われます。

また、CSの救済について、スイスのケラー・ズッター財務大臣は、「『秩序ある処理』 を適用することは可能であったが、破綻によりグローバル金融危機が誘発される可能性があり、潜在的な影響が大き過ぎたため実行できなかった」との見方を示しました。CSの「秩序ある処理」を回避した選択・決断は、「秩序ある処理」が差し迫った現場で本当に実現可能な選択肢か、机上の空論ではないか、改めて検証・確認する必要があることを示しました。

日本では、基本的に、平時においてはベイルイン、有事においてはベイルアウトを破綻処理ツールとしており、米国・欧州に比べて、公的資金の投入に寛容であるといえます。この違いの背景にあるのは、公的資金を用いることに対する世論の違いであると考えられます。

日本でも1996年の「住専救済」をピークに公的資金投入への批判が高まりましたが、1997年の「日本金融危機(拓銀の破綻)」で急速に公的資金の投入が理解されるようになりました。これは、市場原理・市場規律を重視する米国・欧州と、金融当局による規制と保護が強い日本との違いを反映していると思われます。

4.「適合性の原則」遵守を前提にベイルイン

第3の課題についてみていきましょう。米国の3地方銀行の破綻処理において、預金は全額保護され、無担保債権はベイルイン(元本削減)が実現されました。

ベイルインは今回のような限定的な銀行の破綻に際して有効ですが、システミック・リスク型の大規模な金融危機に際してはベイルインを契機とした危機の伝播は大きいと考えられます。

また、CSの救済処理において、AT1債が、株式に劣後し元本削減されたことが注目されました。欧州中央銀行(ECB)やイングランド銀行(BOE)などは「AT1債の元本削減は、普通株式の価値が完全に失われた後にのみ行われる」という認識を示す声明文を公表しました。

日本では、ベイルインに関し、米国・欧州と相違し、金融当局の権限で発行体の債券の価値を強制的にゼロにする「法的ベイルイン(statutory ball-in)」を憲法上の財産権保障の観点から採用していません

これにより、基本的にCSのベイルイン問題のような事象は発生しません。私は、対象AT1債を販売した金融商品取引業者に関し、「適合性の原則」に基づき販売したか、顧客保護の問題が極めて重要であると考えています。

日本国内で販売されたCSのAT1債総額1,400億円のうち、1/3にあたる950億円を三菱UFJモルガン・スタンレー証券が販売しており、相対的にリスクが高いとして個人向けに販売していなかった野村ホールディングスなど他社と比較し、当社の積極的な販売スタンスが際立っていました。

当社に対し、個人投資家など66の原告が、「特殊な規定のあるAT1債の一般投資家への販売は『適合性の原則』に違反」として、取引による損失など総額約52億円の損害賠償を求める集団訴訟を 2023年8月31日に提訴しました。判決を注視したいです。

2023信用不安危機からの教訓として、日本の預金保険制度・破綻処理制度は必要条件をほぼ満たしており、金融規制・監督の強化としては、①預金の大量流出の検証、②「適合性の原則」に基づく顧客保護の徹底、で十分と考えます。
過度な規制・監督は金融機関の競争力と社会経済の発展を妨げることに留意すべきです。2023信用不安危機は、決して「対岸の火事」ではなく、日本の現在の態勢を確認・評価し、改善を図る事象と捉えるべきでしょう。