コロナ禍を経て働き方や企業の在り方はどのように変化したのか?|淑徳大学 日野勝吾先生にインタビュー!

淑徳大学
日野 勝吾先生


1979年、愛知県一宮市生まれ。2001年、中京大学法学部卒業。2003年、熊本大学大学院修士課程修了、2007年、中京大学大学院専門職学位課程修了、2011年東洋大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。

内閣府、消費者庁、独立行政法人国民生活センター等を経て、2013年、高崎商科大学商学部特任講師。2014年、淑徳大学コミュニティ政策学部助教、2017年、同准教授、2023年、同教授。2022年より同学科長。法務博士(専門職)。労働法や消費者法を専門とし、特に公益通報者保護制度に関して研究を進めている。

本務の他、千葉県公益認定等審議会委員、千葉市市民局指定管理者選定評価委員会臨時委員、四街道市総合計画審議会委員、茂原市行政不服審査会委員、特定非営利活動法人消費者市民サポートちば (適格消費者団体)副理事長等も務める。

著書として、『よくわかる働き方改革 人事労務はこう変わる』(ぎょうせい、2017年)、『企業不祥事と公益通報者保護』(有信堂高文社、2020年)、『2022年義務化対応 内部通報・行政通報の実務』(ぎょうせい、2022年)等。


1.コロナ禍を経て労働の在り方はどのように変化したのか?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、私たちの生活様式はもちろんのこと、「職場」、「組織」、そして、「社会」のあり方を大きく見直すトピックとなりました。

例えば、JR京葉線の快速廃止のダイヤ改正が、近時のニュースになっています。コロナ禍において鉄道各社は、鉄道運輸による営業収益確保のため、新型コロナウイルス感染症の影響による生活様式の変化を反映し、運行本数の削減や終電の繰上げを進めています。今回のダイヤ改正は、その方向性に軌を一にしているものとして読み取ることもできます。

政府は、昨年より新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけを、5類感染症へ変更しました。とはいえ、コロナ禍前のように、通勤や通学のため、公共交通機関を用いて出勤することが減少しているといえます。

その背景には、職場や学校は、デジタル化の進展も手伝って、テレワーク(リモートワーク、在宅勤務)やeラーニング(遠隔)授業(リアルタイム配信型授業、オンデマンド型授業)によって、固定化された働き方や学び方から、柔軟化された働き方や学び方へと変容してきているからであろうと思われます。

要するに、これまで以上に「職場」や「学校」の場所的空間の在り方が問われてきており、「職場」や「学校」に出向くからこそ得られる「価値」とは何か、より言及すれば、「働くこと」や「学ぶこと」の「価値」を見出すことができるか、などといった諸点を、今だからこそ、改めて問い直す時期に来ていると考えています。

例えば、「職場」であれば、決裁書類の電子化やデジタルチャットによる情報の共有化、「学校」であれば、テスト・レポート課題提出の電子化やVRを用いた授業展開等が進行すれば、その場に滞在する必要性自体は薄くなります。つまり、その場に滞在するからこそ得られる人間関係、知識・経験こそが、現代社会を生き抜く上での重要な要素となり得ると思います。

コロナ禍が解消された現在、労働の在り方を考えるにあたり、「コスパ」や「タイパ」ではありませんが、労働者にとって、最適なパフォーマンスが実現できる労働環境整備が重要であり、そういった意味での雇用・労働法政策と、適切な人的資源管理(労務管理)が求められます。


2.労働の仕方が変化する中、働き方改革はどのように進んでいくのか?

政府による働き方改革は、コロナ禍前の労働(法)政策です。平成30年6月に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(「働き方改革関連法」)が成立し、主として下記の項目について改革を推進していくものです。

・長時間労働の是正

・多様で柔軟な働き方の実現

・正規雇用・非正規雇用(短時間・有期)の形態に関わらない公正な待遇の確保

例えば、残業規制(時間外労働)の上限については、月45時間、年360時間として、違反した使用者に対しては罰則を科していますが、この規制も働き方改革の流れを汲んでおり、その一環として労働基準法改正につながりました。

政府による働き方改革の背景には、第195回国会における安倍晋三内閣総理大臣所信表明演説(平成29年11月17日)演説において「女性が輝く社会、お年寄りも若者も、障害や難病のある方も、誰もが生きがいを感じられる『一億総活躍社会』を創り上げ」るとしており、「一億総活躍社会」の形成に資する一政策として働き方改革を位置づけていました。

政府の働き方改革は、労働法制の変革等を通じて、多様な働き方を可能とすることで、「一億総活躍社会」を実現しようとしています。要するに、経済成長と分配の好循環を図ることを念頭に置いた、ミクロ経済政策の一環として位置づけていたといえます。

働き方改革の主要政策の一端は、コロナ禍の環境下によって推進させた面もあろうかと思います。確かに、多様で柔軟な働き方が叶うことによって、育児や介護をはじめとして、ワーク・ライフ・バランスの実現に資するといえ、家庭生活の充実化に貢献することにつながるといえます。

他方、労働者にとって労働条件(賃金、労働時間、安全衛生等)の低下のおそれ、職場における人間関係の希薄化、デジタル機器の先進化に伴う労働概念の曖昧さなど、対外的には「見えない」過度な負担を労働者に強いてはいないか、などといった点も確認・検証すべき視点です。

労使双方が、コロナ禍によって得られた経験や知見を、多元化する職場環境に活かすために共有するとともに、持続可能な「組織」や「職場」に向けた取り組むべきことは何か、改めて対話することが先決であると考えます。


3.これから労働法はどのような変化をするのか?

労使のみならず、社会システム全体として、労働法の存在意義や存在価値を改めて確認することが肝要であろうと思います。労働法は、労働者を取り巻く労働環境の安全性を前提にして、労働者の生活を支え、適切な労使関係の下で望ましい労働条件・待遇決定を図る規整機能を有しています。

その一方、時勢を俯瞰してみると、少子高齢、人手不足、DX、AI、デフレ、地方創生など、わが国を取り巻くドラスティックな変化が、私たちの働き方そのものに多大な影響を及ぼしています。労働法制もこうした変革に適時適切に対応していかなければならず、これまで以上に、立法政策の観点、特に、EBPM(Evidence-Based Policy Making)の視点から、労働者の置かれている労働実態を含めた、立法事実に基づく労働(法)政策が求められるでしょう。

政府は、『デフレ完全脱却のための総合経済対策~日本経済の新たなステージにむけて~(令和5年11月2日)』において、三位一体の労働市場改革の推進として、「リ・スキリング(教育訓練給付拡充、在職中の非正規雇用者支援、企業・大学の共同講座等)」を取り上げています。

「メンバーシップ型雇用」から「ジョブ型雇用」へと喧伝されて久しいですが、労働の価値をより高め、価値そのものを創造(想像)するためにも、予測不可能な現代社会を生き抜く「スキル」を身につけることが重要であり、私たちも日々学び続けていかなければなりません。

また、「労働」と「消費」の表裏一体性も踏まえた上で、社会システムの中での労働法政策をどのように考え、推進していくのか、といった視座も重要です。

私たちは、社会生活上の時間の多くを、労働生活に充てています。とはいえ、いうまでもありませんが、家庭生活や消費生活も人生にとって重要な要素です。労働者は職場やテレワークから退勤すると、消費者として、商品の購入やサービスの提供を受ける立場になり得ます。

つまり、私たちは、労働者であり、かつ、消費者であるわけです。そのように考えると、消費をする際にも、労働者のことを想いながら消費をすることが必要です。近時、物流業界における2024年問題も大きなトピックになっており、消費者が自宅に不在が続いたあげく、何度も宅配ドライバーが訪問せざるを得ない現実があります。また、カスタマーハラスメント(カスハラ)のように、消費者が労働者に対して、著しい迷惑行為・ハラスメント行為に関する実態も浮き彫りとなっています。

なお、カスハラに関しては、労働施策総合推進法等の改正により、令和2年1月、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)が策定されました。

これは、顧客等からの暴行、不当な要求等の著しい迷惑行為について、事業主は相談に応じ、適切に対応するための体制の整備や被害者への配慮の取組を行うことが望ましい旨、また、被害を防止するための取組を行うことが有効である旨が規定されています。

今一度、一人の消費者として、そして、一人の労働者として、他人事ではなく、自分事として、労働現場の「リアル」をしっかりと直視すべきだと思います。このことこそ、わが国の社会システムのサスティナビリティ(持続可能性)につながりますし、労働法の存在意義や存在価値を理解することにつながります。また、国連の2030アジェンダ「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)」の、目標8「働きがいも経済成長も」や目標12「つくる責任 つかう責任」にも共通し、次世代に対する責任を果たすことにも資すると考えます。