これから日本が経済発展していくために必要な要素と政府の役割とは?|静岡大学 黄 月華先生にインタビュー


静岡大学
黄 月華先生


2000年代初め日本での留学をスタートし、なぜ貧困が生まれるかという問題意識をもって経済の勉強をしてきました。貧困は経済成長をもって解決でき、その過程を支える金融システムはどのような要素の影響を受けて形成するのかを究明するのが今の研究テーマとなります。アジア各国の参考国として日本経済の勉強をしたため、歴史からみた経済発展の一般論的なお話しができればと思います。

1.経済発展をするために必要な要素とは?

多くの国で経済発展または経済成長を目標として掲げていますが、経済発展(Economic Development)は、まだ経済学で明確に定義されていなく、一般的に未発達で低所得の国家経済が近代的な産業経済へ移行するプロセスを指し、経済成長はある経済体の国内総生産、つまり経済規模の拡大を指していると認識されています。

そのため、経済発展は、国民経済の豊かさ、工業化・国際化水準、国民生活の充実度、一人当りGDPなどで評価し、経済成長はGDP規模、経済成長率、実質成長率などで評価することが多いのが現状であります。貧困から脱出するにはまず経済成長を、それから国民生活水準の維持のためには経済発展の継続が必要であると考えられます。

経済成長に関しては、工業化過程を伴う産業発展でGDPの拡大、さらに約10%近くの実質成長率も我々は経験しています。例として戦後の日本、韓国、中国含め、アジアの多くの国で工業化過程を伴う急速な成長があげられます。

工業化の過程で必要とする要素は動労、資本、技術であることには異論がないと思われますが、どの要素が特に重要かより、どの要素を投入できるかを考えたほうが現実的ではないかと思います。

戦後のアジア各国でいえば、資本も技術もなく、優位性を持っていた要素は労働であったため、経済発展の初期段階においては紡績などを含む軽工業、すなわち労働集約型産業から工業化を始めました。

それから資本蓄積が進み、技術力をつけてきたら、石油・鉄鋼・電子・電気・ITなどの産業を発展させる基礎ができたと思われます。したがって、工業化過程での産業発展においては、発展段階によって投入できる要素が異なっていると言えるかもしれません。

2.経済発展における政府の役割とは?

経済発展過程における政府の役割は、「マネジメント・調整」ではないかと思います。それには、国情に合した制度を制定したり、政策の実施が伴います。

アジア各国の経済発展におかれましては、政府の役割が非常に重要で、政府主導の工業化の成功により経済発展問題に対して、先進国であっても政府の役割、言い換えれば政府の主導性に依存する慣性が出るのではないかと思います。しかし、工業化が完了した先進国に関しては、産業開発での政府の役割より、景気調整の役割が多くなっているかもしれません。

段階を分けて説明すると、工業化段階において政府はそれに必要な巨額な資金需要を満たすため、金融面で高金利政策を行って預金を集めたり、人為的低金利政策を行って資金提供を行ったり、円滑で長期資金提供を考慮し銀行に対して保護する制度を制定する必要があるといえます。

工業発展を経ると、政府より市場機能がより経済発展に有効であると考えられますが、幾度も経験したように市場の失敗は存在し(2008年金融危機など)、さらに我々の生活に大きな影響を与えています。経済的ショックをうけ景気が不安定する際は、政府は金融緩和を行ったり、財政面の政策を合わせて実施することが重要と言えます。

3.日本は今後どのような経済発展をすると考えられるか?

2000年代以降日本経済に関して悲観的にみられることが多いと感じていますが、それでも経済規模は大きく、経済発展度合いは非常に高い水準を維持していると考えています。

「今後どのような経済発展をすると考えられるか」というよりは、むしろ「どの方向へ、どのように経済を発展させたらいいのか」を政府、企業、国民全体で考えないといけない問題であると考えています。日本経済が置かれている現状は歴史的にも初めてでありますので、どう発展するのかは答えがなく、どうしたいのかを問い、そこから発展していく段階であると思います。

現在何が問題なのか(経済停滞、政府の役割不足)、これからどうしたいのか(経済発展方向性、経済発展方法不明)を明確にし、共通意識のもとで議論が必要であると考えています。